退職後
(その9)

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2022.9.24


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要約学習
〜今日この頃〜


 在職最終年度は、勤務校(赤来中学校)の「要約学習」を全学年担当しました。年間、各学年7時間設定という力の入れようでした。

 退職後、思いがけずF教頭から「引き続き要約学習を担当して欲しい」という依頼を受けました。もともと授業に未練がある? 私です。二つ返事で承諾しました。 ……そして、現在に至っています。

 併せて、要約学習導入時に教頭だったM先生が、「学校図書館担当指導主事」として県教育委員会指導主事に就任。パワフルに力を発揮しておられました。島根県校長研修会では講義の中に「要約学習」のピーアールをされてもいました。また一方では全国規模の「学校図書館研究集会」を開催、「要約学習」担当に私が指名されました。

 という経緯もあって(飯南町始め)、益田市・浜田市・大田市・出雲市・雲南市・川本町・邑智町から教育委員会または教育研究会主催の「要約学習研修会」講師に招かれました。

 以後、今日に至るまでさまざまな学校から「要約学習」の授業依頼が来ています。特に、5月〜7月、9月〜12月、1月は、週あたり2回〜5回出かけています。(先週 9/12〜今週 9/22は、授業日は全て授業に出かけました。)

 授業に出かけると、ワークシート(一人2枚)の事後処理があります。(一クラス30人の場合は)少なくても約2時間はかかります。ということで、一日2学級以内ということで、授業を受けてきています。

 この間、教材づくりはひっきりなしです。小学校中学年と高学年とは、教材内容がぜんぜん違います。中学校になると時事問題始め、題材が広がります。年間通して、時間を見ては教材づくりに勤しんでいます。

 作った教材は、ホームページ「要約学習」にアップロードしています。理由は、多くの学校から「要約学習の教材はどうしたらいいか?」という問い合わせがあったからです。一番手っ取り早いのは、ホームページに掲載することです。著作権は私にあります。著作権フリーです。

 時に現役時代以上に多忙な日々を過ごしますが、これを天命と受け止め、嬉々として授業に立ち向かっています。

 一人でも多くの児童・生徒に「図式」を伝授したい。一人でも多くの先生に「図式」を伝えたい。 ……この熱い思いを抱いて、授業に出かけている今日この頃です。

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要約学習
学習指導過程














要約学習のスタート


 平成19年夏休み、勤務校(赤来中学校)研究部会で問題点が指摘されました。

 「生徒が調べ学習している様子を見ると、インターネットサイトの文章をコピペ(コピー&ペースト)したり、参考図書を丸写ししている。これは著作権に触れるが、学校現場で許されていいのか? 著作権について指導する必要があるのではないか?」

 これを受けて、2学期から全校挙げて「総合的な学習の時間」の一環として「丸写ししないための調べ学習」を目指した授業がスタートしました。名付けて「要約学習」。校長の私は国語が専門教科だったこともあって、授業の一端を担うことになりました。

 当初は、授業の展開(学習指導計画)は実に単純、静かな落ち着いた時間が流れていました。

@ 生徒全員に同じ教材(文章)を配布する。
A 15分間 各自が文章を図式化する。
B 12分間 教材は机の中にしまう。図式を基に300字〜400字に文章化(要約)する。
C 10分間 グループ内(5人〜6人)で、図式の回し見をする。
D 10分間 教師主導でポイントの指導、自己採点。 ⇒回収(教師による個別指導:コメント)。

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「要約学習」の命名


 要約学習の命名は、研究部からの提案です。「国語科の読解指導」ではなく、「総合的な学習の時間」の一環なので違和感はありました。が、調べ学習の基礎学力は「正確に文章を取り込む」ことでもあります。

 特に異論を挟むことなく、生徒たちには「要約学習」として提示し、授業に臨みました。しかし、現在も正直な気持ちは「要約学習」ではなく「図式学習」です。一続きの「ぺったんこの文章(一次元の文字列)」を、いかに立体的な三次元の読解に導くか? その手だてとして「図式」を導入しました。

 基の文章を図式化し、その図式を見ながら作文すると、その文章は「著作権」にかかりません。ここが一番のポイントです。丸写ししない調べ学習を「実践的に学ぶ」学習、それが「要約学習」です。

 この図式は、国語科教員として30歳代初頭に授業に導入しました。説明的文章の読解のポイントは、要約力です。読解力と要約力とは、ほとんど正比例関係にあります。

 しかし、生徒の実態として「文章の要約」は極めて抵抗感のある学習でした。嬉々として取り組む生徒は、きわめて希。それどころか取りかかろうとしない生徒が、毎年少なからず存在しました。

 これを一気に解決してくれたのが「文章の図式化」でした。読解力のある生徒が、特に喜んで受け入れてくれました。読解力が苦手な生徒にとっても、文章でなく「図」または「イラスト化」するので、抵抗感がぐんと軽減しました。

 この「図式」が、校長になってから最後の勤務校で、再び花開こうとは予想だにしなかった展開です。

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文章を朗読しないプレゼン
〜一気に授業が活性化!〜


 翌年度(平成20年度)、同じく「校内研究部会」において、調べたりまとめたりした内容をプレゼンする様子を見ると、大半の生徒が下を向いて「作文を朗読」している

 これでは、せっかくの「調べ学習」や「考察」も相手に伝わらない、迫力がない。堂々と前を向いて「語りかける」ようなプレゼンが出来るように、これも「要約学習」で扱って欲しい。

 生徒のプレゼンの実態は、グラフ・写真・動画・挿絵・図表などを使って工夫を凝らしています。なかにはパワーポイントを使う生徒も若干名ではありますがありました。

 しかし残念なことに生徒は例外なく、予め原稿を作文しています。その原稿を抱えて、ほとんど朗読していました。

 予め原稿を書かずにプレゼンをする方法、それは、またしても「図式」の活用です。私がかねてから「スピーチ」の際に実践している方法でもありました。

 このときから要約学習の「学習指導過程」が大きく変わりました。それとともに、静かだった教室が一気に活性化しました。ちなみにDは、新たに導入した「聞き取り図式 ⇒内容の再現プレゼン」です。

@ 4人グループになる。
A 15分間 4人がそれぞれ違う文章を図式化する。
B 8分間 2人ペアになり、40秒間で相互プレゼン。合計3セット。
C 6分間 代表者(4人)による全体プレゼン。
D 15分間 6分程度の指導者のプレゼンを聞きながら図式化する。
 ⇒ 2人組、ペアの相手に相互伝達(プレゼン)。

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発想の大転換
〜要は図式を学ぶこと〜


 K小学校から打診がありました。「要約学習を朝学習の20分間で行いたいが、対応できるか?」

 聞いた途端「あ、それは無理だ」と思いました。が、落ち着いて考えると「要は図式のレベルを上げること。教材の量と難易度を下げれば可能だ」ということに気づきました。

 ピンチはチャンスです。一単位時間で「一人1教材の図式化 から一人2教材の図式化」が可能になりました。一単位時間で一人が2本、図式を練習できるようになったのです。これは大きな収穫でした。

 その後、授業の後半は、聞き取り図式を導入することも可能になりました。それまで行っていた要約学習に、ぐんと厚みが増したわけです。

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情報活用能力の育成


 E小学校の校内研修会で質問が出ました。「総合的な学習の時間の趣旨は『情報活用能力の育成』だが、要約学習ではそういう学習は行わないのか?」。

 赤来中学校では3年生については、年度後半から取り入れていました。要約学習の目指す直接的な目的は、図式力の向上です。その延長線上にあるメディアリテラシー(情報活用能力)の育成については、「総合的な学習の時間」で実践的に扱ってほしいという気持ちを抱いていました。

 その上、限られた一単位の授業時間で、図式力向上と情報活用能力の二つ、育成を目指すと虻蜂取らずになりかねない。まして、小学生にそういう学習の導入が可能なのか? という不安もありました。

 しかし、E小学校で試験的に4年生で導入してみることになりました。取り上げたテーマは「ノーチャイムの導入の是非」です。

 授業後半の扱い方(合計20分間)

@ 7分間 「授業開始、終了時などを知らせる方法の変遷」について指導者のプレゼン。児童は聞き取り図式を書きながら聞く。
A 2分間 2人ペアでお互いに話の内容を再現し合う。(一人40秒間)
B 3分間 ノーチャイムに関して自分の意見を「図式」にまとめる。
C 2分間 2人ペアでお互いに自分の考えをプレゼンし合う。(一人40秒間)
D 4分間 一人ずつ全体発表


 4学級とも意欲的に自分の考えを図式にまとめ、立派に発表することができました。物事はやってみる、試してみるものです。このとき以後、「情報活用能力の育成」の基礎的な内容をも導入して、今日に至っています。要約学習は欲張り、実に盛りだくさんです

※ 題材例
部活動の是非
学校週5日制の是非
マスク着用の是非(現時点)
大規模校がいいか小規模校がいいか
先生になるなら小学校か中学校か
校庭は芝生がいいか土がいいか
ペットにするならネコがいいかイヌがいいか
夫婦同姓か夫婦別姓か
学校給食の是非
中学生スマホ所持の是非

マイバッグ万引き防止策
免疫力を高める方法
少子化でもいい理由は?
限界集落を防ぐ手だては?
陽性:自宅療養から出校⇒かける言葉は?

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情報活用能力の部屋


 今、学校教育をめぐっては、メディア・リテラシーが注目されています。

 学校教育(読解力)においては、いかに正確に文章を読みとるようにするかが、授業で目指すところでした。しかし、「ピサ型学力(読解力)」がクローズアップされ、情報活用能力こそ求められるべき学力という考え方が主流となってきています。

 その流れの中で登場したのが、「総合的な学習の時間」でもあります。インターネットの普及などにより、個人でも情報を発信することが容易になった昨今、リテラシーの向上がますます求められるようになっています。

 社会生活をめぐっては、さまざまな課題が取り巻いています。新型コロナの問題、ワクチン接種の問題、消費税、原発、学校週五日制、東日本大震災復興問題、個人情報保護法、靖国参拝問題、尖閣諸島国有化と日中問題、……。これらの課題について、新聞やテレビなどマスコミの論調に振り回されない、自立した社会人であることが、ますます重要となってきています。

 こういう時期に当たり、生徒には文章を正確に読みとるとともに、自分なりの考えをめぐらし、さまざまな観点から自分なりの見解を導き出すよう、その基盤を培ってやりたいと考えています。

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図式を活用しよう!
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図式を身に着ける意味について
生徒向けに文章を書きました。


 文章を読むということは、家が建っていくのを眺めることに似ています。何もないところから地面が整地されます。土台が整備されます。柱が立っていきます。木組みによって家の骨組みが出来ます。壁が張られていきます。その後は内装があって、やがて完成します。

 文章を読む場合、何もないところから「無味乾燥な文字列」を「意味ある内容」に変換しながら(=変えながら)読み進めます。最初の頃は、全体像は見えません。無からのスタートです。読み進めていくうちに、だんだん部分から輪郭が見え始めます。一次元(文字列)から二次元(意味ある内容)に、やがて全体像が三次元(立体的)となって出現します。

 文章の内容が分かるということは、一列に並んだ文字を「意味ある内容に変換する」だけでは不十分です。ぺったんこの文章が立体的に見えて、始めて「分かった(理解出来た)」と言えます。文章の組み立て(構造)がつかめないと、本当に理解出来たとは言えません。

 文章を立体的に読み進める、立体的に理解する訓練が、「文章を図式にする」という要約学習で行っている勉強です。 ……図式を見れば、その人が文章をどのように理解しているかが一目瞭然(=ひと目見ただけで、はっきり分かる)です。

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 一方、人前でスピーチやプレゼンをする場合、話す内容が立体的になっていないと上手く話せません。相手に理解しやすい話し方が出来ません。無駄なく、コンパクトに話すことが出来ません。

 したがって、話す前に必要なことは、前もって「作文」を書くことではありません。話す内容を立体的・構造的に「図式」に書くことです。図式が手元にあれば、聞く人の方を見ながら「語りかける」ように話すことが出来ます。語りかけるように話すと、聞く人も理解がしやすくなります。

 ということで、これからの学校生活をとおして、図式を書きながら人の話を聞いたり、図式を書きながら文章を読んだり、図式を基にスピーチをしたり、……というぐあいに、大いに図式を活用していきましょう!

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2Dの文章を3D化する
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2021.11.23



〜図式力を高める意味〜


 本をたくさん読めば読解力が伸びるかというと、そういう訳ではありません。読解力とは、「1D(1次元)の文字列や2D(2次元)の文章を、3D(3次元:立体映像)に立ち上げてイメージできる能力」のことです。読み進めている文章が、同時に頭の中で図解化・映像化できる能力が、本物の読解力なのです。

 文章を読むことが苦手な子は、字面だけ読んでしまうので結局、読み終わっても内容が具体的な形として脳裏に残っていません。読み終えた文章内容を人に伝えることが出来ません。人に読み終えた内容を要約して語ることは出来ません。これでは、せっかく読んだ文章が無駄になってしまっています。

 読みながら「ぺったんこの2Dの文章が3Dの立体的な映像に立ち上がる」と、全体的な動きが想像できるので、内容が全体構造として丸ごと理解できるのです。

 この「2Dの文章が3Dの立体的な映像に立ち上げる」訓練が、まさに要約学習で行っている「図式」力の育成なのです。

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令和4年3月1日


 今年度も年間通して「要約学習」の授業を組み込んでいただき、ありがたく厚く感謝申し上げます。どの学級も学習規律がしっかりしており、全員が前向き意欲的に学習に取り組んでくれたことを、たいへん嬉しく頼もしく思っております。

 つきましては今年度の授業を終えるに当たって、繰り返しになりますが、先生方に「要約学習の趣旨」の一端をご説明しようと思い立ちました。

 読み取る力(読解力)や聞き取る力(聴解力)の向上、話す力(スピーチ力)や文章を書く力(文章力)の向上は、学力の基盤になるとともに日常生活をより豊かにしてくれます。一方、日頃の生活や授業は「聞く・話す・読む・書く」の連続です。これなくして日常生活は成り立ちません。日常生活すべてが、言語力育成の場(チャンス)です。

 ところで、先生方には生徒の皆さんにに説明したり語りかけたりすることの連続です。生徒の皆さんが理解しやすい話し方、説得力のある話し方は、授業力(指導力)を根底から支えています。よりシンプルでより端的に話すに比例して、子ども達の理解力はぐんぐん高まります。先生は子ども達にとって、かけがえのない(話し方の)お手本にもなっています。

 なお、図式は「右脳」を使います。内容を映像化し、まるごと理解を可能にしてくれます。一次元(文章)を三次元の姿に仕立て直します。したがって、図式の活用は多方面にわたっています。

※ 書籍・新聞など読んだりテレビを視聴したりしながら、必要箇所を図式化。 →情報のカプセル
※ さまざまなマニュアル(災害時の避難など)の図式化。 →行動様式が一目瞭然になる。
※ スピーチの準備としての図式化。 →図式をもとに「語りかけるようなスピーチ」が可能になる。
※ 考えを練ったりまとめたりするときに、図式を活用。 →より立体的に、視覚的に構想できる。

 以下、蛇足です。

※ 後で人に話すつもりで読んだり聞いたりすることが、言語力育成のコツです。
※ 自分の言葉で短く言い換えることが出来て、初めて「理解した」と言えます。
※ キーワードを渡り歩きながら全体の大きな流れを把握できる力こそ、読解力の基盤です。
※ 右脳を駆使し、文章が絵図や一覧表などになり、内容を脳裏に一望できる力が、読解力の基盤です。
※ 読解力の育成にあたってはインプットも大事ですが、アウトプットを育てることが重要です。

 
* アウトプット(人に説明すること)の訓練は、頭の働きを向上させます。
 * アウトプットは自分が納得していないと出来ません。
 * アウトプットは能動的です。アクティブラーニングの根幹はアウトプットです。

 終わりになりましたが、生徒の皆さんが今後も折に触れて「図式力」を導入・活用され、言語力の更なる向上と学力の基盤を培いながら、ぐんぐん成長されることを祈っております。。

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