先日、津和野にある「安野光雅美術館」に出かけました。むろん、絵本の挿絵など独特の世界に魅せられました。が、一番足を止めてみたのは「百人一首」下の句を取り入れ、安野光雅の世界を詠み込んだ短歌でした。こういうのを「本歌取り」というのでしょうか? いやはや新鮮で愉快でした。
歌かなし終戦の夜は歩哨にてわがころもでは露にぬれつつ
小春日に乙女の色のひるがへりころもほすてふ天のかぐ山
旅の宿窓うつ氷雨行く秋のながながし夜をひとりかも寝む
伏流の神酒たてまつる大観の富士の高嶺に雪は降りつつ
村祭りはじめて紅をさす子らの声聞く時ぞ秋はかなしき
うた響くアルバイシンの家並みの白きをみれば夜ぞふけにける
シエナではワインの色に酔ひたまふ三笠の山にいでし月かも
わが庵は姥捨山の麓にて世をうじ山とひとはいふなり
黒髪の色あせぬ間と思ひしにわが身世にふるながめせしまに
たとふればイスタンブールの人混みは知るも知らぬも逢坂の関。