@ 2014年、群馬県の富岡製糸場が世界文化遺産に選ばれました。ここで115 年間、糸の原料を供給し続けてきたのは蚕です。蚕は蓋のない箱からも幼虫が逃げずにおとなしく繭をつくり、成虫になっても飛びません。ほかの幼虫が体の上に乗っても、嫌な顔一つせずじっとしたままです。まゆを作る時だけ、わざわざ人が捕まえやすい場所まで上ってきます。これがカイコの特徴です。しかも絹が採れる繭だけでなく、あとに残ったサナギは魚のエサになります。カイコが食べる桑の葉には、血糖値の上昇を抑える効果があります。
A ところで、この蚕が遺伝子組み換え技術によって注目を集めています。代表例は暗やみで光る蚕です。オワンクラゲなどの遺伝子を、蚕の卵に注射して生まれます。農業生物資源研究所が2007年には蚕の糸を光らせることに成功しました。現在は、繭を2万個使った「光るドレス」作りまでこぎ着けています。その他に、カイコの体内で薬・化粧品・人工血管などを作らせる研究も進んでいます。
B もっとも蚕の世話や大量飼育は重労働です。日本でカイコを育てる農家は、昭和初期の220万戸から現在、500戸以下にまで減りました。そういう中にあって群馬県の農家は、世界文化遺産の名誉にかけて、遺伝子組み換え蚕の飼育で生き残りを図ろうとしています。