@ 島根県邑南町日貫の東屋集落は、山あいの谷ごとに民家が点在しています。この地で約50年間、コメ作りを続けてきた東 国雄さん(77歳)が水田を眺めながら、「人間が住むところが少なくなり、増えるのはイノシシやクマばかり。こんな農村になるとは思わなかった。」と肩を落としました。かつては20人ほどが暮らしたこの谷で、今や住民は東さん夫婦を含め3世帯4人のみ。集落の「耕作放棄地」(米作りを辞めた田んぼ)も増える一方です。
A 東屋集落には市町村が認めた「認定農業者」(認定を受けると、金融や税制などの支援を受けることができる)がおらず、また農地を持ち寄り共同で農業に当たる「集落営農組織」(農家が各自の農地を持ち寄り、共同で農機具を所有したり、農作業を行ったりする組織)もありません。これらに当てはまる農業の「担い手不在集落」は、島根県の調査(2019年3月末)で、県内の農業集落全体の4分の1に当たる1,094カ所。県内就農者の平均年齢は71歳で、進む高齢化を前に「限界」の足音が近づいています。
B 現政権が農業分野の成長戦略で掲げた農地集積による規模拡大(集落営農組織など)は、谷筋に張り付くような農地が多い地域では実現不可能です。こういう条件不利地域の農業を支えてきた「中山間地域等直接支払い制度」(農業補助金)も、5年ごとの交付手続きが必要です。要件の一つにある「5年間の農業継続」が就農者の高齢化のため、高いハードルとなってきているのです。