短歌の作品
家族

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家 族

2015年5月、母が脳出血で、一ヶ月余り意識不明で生死を漂っているときに生まれた詠草。


今はただ見守るだけの吾なれど母の寝息に病状探る

たらちねの母のかたはら寄り添へばふと過ぎり来るあの日あのとき

早朝の電話の鳴りて病状の急変伝ふる声震えたり

苦しげな母の寝息の傍らに我ただ居りぬただ見守れり

病床の母に寄り添ひぼんやりと琴引山の頂観たり

母病みてひたすら眠る病床に空青々と天に広がる

点滴のしたたる管にすがる母 命の燃ゆる寝息の聞こゆ

小さき蛾の机の上に羽ばたけり伏す母のそば羽ばたけるなり

血糖値・血圧・呼吸・体温の乱高下せり母の寝息に

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初春におめでとうとも言えなくてただ見つめをり伏す母の眼を

梅が香に娘の笑顔卒業すいざ歩み出せ看護への道

介護五の母に連れ添う秋祭り逢ふ人ごとに涙ながしぬ

病床に米寿を祝う花あふれ今のみを生く母笑みてあり

花嫁はいつも通りに微笑みて交わす祝杯天高き日に

梅雨晴れてじいじと呼ぶ児のシャボン追ふ後ろ姿を吾追ひかけり

きょうもまたじいちゃんあそぼとかけてきてぷにぷにほっぺをくっつけてくる

見舞ひたる叔母との会話弾めども数分前のこと消え去れり……

胴巻きと腹部を病める母なれば意識の底で伝えたらむか

悔やまんか脳出血に倒れたる母に胃ろうの決意したるを

ただにただぢっと虚空を見つめをる母を見舞ひて年改まる

うららかに春立ち上る陽ざし受け笑顔残して孫ら去りゆく

水底にぢっと身を置き静まれる父の形見の年老ひし鯉
餌をやれば身をひるがえしゆるゆると近づき来たる亡父の鯉よ
餌を持てばそれと察して近寄りて目を合わせたる亡き父の鯉
縁側に立てば目合わせひるがえり近寄りてくる亡き父の鯉


秋の陽をあまた載せたる雲流れお花畑の孫娘去る

 2022.12.25〜2023.1.13 次男が孫2人をつれて長野から帰省。そのときの詠草です。
             


あら不思議 半年間の時空超へ響きあひたる孫との笑顔

帰省より怒濤の時間来たりなば孫は来てよし帰ってよしとや

今朝もまたじいちゃんあそぼと駆け寄りて日がな一日べったり暮るる

ブロックに絵本にバレーにカーレース尽きることなし孫との遊び

孫二人左と右にぺったりと体寄せきて食事の時間

温泉もサウナにまでも孫と爺どこへもいっしょ仲良しこよし

何もかも爺と同じにしたいとぞ訴える孫愛おしきかな

孫二人コロナになりてお別れの日の遠のきて ジイ嬉し泣き?

二十日のあっけなく過ぎ幼子ら別れの笑顔残し立ち去る

見送りて佇む空に冬の雲どんより垂れて背中に抜ける

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 2023.04 2023.4.1〜4.9 育休中の長女が孫2人を連れて広島から帰省。そのときの詠草です。
                 


じいちゃん来たよ! 不意に現る孫娘なかよしこよし時空を超える

肝っ玉母さん二児の我が娘 乳飲み子抱えて炊事をこなす

初帰省の赤ちゃん二か月(いだけども固まる体ぎこちなき腕

朝いちばん聞こえてくるは孫の声じちゃんおるぅ〜と飛び込む笑顔

読み終えて重ねし絵本十二冊! 声かすれども次これ読んで!

ゆうれいみたいほら見てごらんおじいちゃん枝垂(しだれ桜も花びら散らす

犬のごと駆けずり回る孫娘きょだい遊具に見え隠れする

見とってよ! 孫の縄跳び見学すジイジはもはやかないませぬぞ

孫娘みけ猫のごとにじり寄りあれよあれよとちゃかり抱っこ

あっけなく車のランプ遠ざかる孫の笑顔も遠ざかりゆく

あっけなく車のランプ遠ざかり孫の笑顔を連れ去りゆけり

はなやかな娘家族を見送りてじいじのまなこ空にとどまる

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問ひかけに目合はぬ母のうつろなる心に届けひ孫の笑顔
母にまだ心に形あれかしと言葉束ねて語りかけたり


2023.06 5月11日、父の7人兄弟のうち4番目の叔母(95歳)が天に召されました。

祭壇の叔母の遺影が亡き祖母の面影に似て涙で霞む

ゆるゆると叔母を乗せたる霊柩車離れてゆけり霧雨浴びて

小雨降るなかをゆっくり歩みつつ亡き叔母の顔まぶたを過ぎる

これ叔母の仏様とぞしめやかに火葬仕切れる人の声聞く

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じいちゃんの顔が見たいって頼んだの! ラインが動く笑顔届ける

うららけく陽の当たりたる池の(に亡父の鯉の餌をパクつけり

秋の日の光に跳ねる池のコイ水面(みなもを揺らしまた静まれり


亡き父の遺せしコイの息絶へて水底に揺れ秋の風吹く

水底に命終へたる白コイのずしりと重しすくひ上ぐれば

すくひ上げ池のほとりの一角に静かに埋めむ父の化身を

手を合わせ般若心経唱へれば涙あふれて止まらざるなり

眺むれば真鯉寂しく池にゐて水を揺らしてお弔ひする

撫づるごと風の過ぎ去る池の(に枯れ葉ひらりと落ちて漂ふ

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のど渇き声枯れたれど読み聞かせしたる周りにひしめく孫ら
口渇き声かすれたる読み聞かせ『銭天堂』に孫らベタ惚れ

おお孫よ!ひと月前のはいはいが立てり歩めり我がふところへ
とてぽてと危うい歩み見せながら顔中笑顔で寄り来たる孫


鯉の目のちらとこちらを一瞥(いちべつし凍れる水にぢっと動かず
静まれる池の水面を見てをれば枯れ葉一葉落ちて漂ふ

2024.07 仕事終え基地に戻れる掃除ロボ湧く愛しさにつひなでなです

2024.08 片言で話しかけたる幼子の(の手引き寄せワンワンそそる

2025.2 孫くれし手紙の文字が難解で感動までの宇宙空間