オノマトペとは、擬音語・擬態語のことです。日本語には実に豊富です。一種、言葉の遊びとも言えますが、短歌にとって擬態語・擬音語の存在感は計り知れないものがあります。
「ムダな言葉は省きましょう!」が、当てはまらない例がオノマトペです。
虫の声、鳥の鳴き声など、西欧人には雑音にしか聞こえないそうです。四季があって、風流な日本人ならではのオノマトペです。
斎藤茂吉
あかあかと一本の道とほりたり
たまきはる我が命なりけり
|
. |
「たまきはる」は命にかかる枕詞。あかあかと染まった一本道を通っていると、自分の命がそこにあるように感じられてくる。擬態語「あかあかと」と、枕詞「たまきはる」が大きな役割をして、一本道に自分の人生を見るという格調高い短歌となっています。
斎藤茂吉
死に近き母に添い寝のしんしんと
遠田のかはづ天に聞こゆる
|
. |
静寂の中で天に召されようとしている母の姿が、しんしんと迫ってくる短歌です。
斎藤茂吉
しんしんと雪ふるなかにたたずめる
馬の眼(まなこ)はまたたきにけり
|
. |
この場合、しんしんは「音(擬音語)」です。雪が真っ直ぐに降ってきている。その中に馬は静かに佇んでいるんです。
土屋文明
ツチヤクンクウフクと鳴きて
山鳩は去年のこと今は声遠し
|
. |
終戦直後は食べるものが無くて、山鳩の鳴き声を聞いても「クウフククウフク」と聞こえたようです。
永井陽子
べくべからべくべかりべしべきべけれ
鈴掛並木来る鼓笛隊
|
. |
調子よく弾む「べし」の活用形の音は、すずかけの並木を、太鼓やシンバルなどでくっきりとリズムをとりながら姿勢よく演奏行進してくる鼓笛隊に調子が良くあっています。
永田和宏
ビル街を行く時ここは風の道
しゃらくせえしゃらくせえぞと風吹きすぎる
|
. |
むしゃくしゃしている時には、風までも「しゃらくせえ」と言っているようでした。
北原白秋
きりはたりはたりちゃうちゃう
血の色の棺衣(かけぎ)織るとよ悲しき機よ
|
. |
北原白秋はオノマトペが本当に上手な人でした。
北原白秋
月夜よし二つふすべの青瓢(あおふすべ)
あらへうふらへううみつつおもしろ
|
. |
ふすべは瓢箪(ひょうたん)のこと。瓢箪が風に揺れている様子を短歌にしています。
河野裕子
雨垂れはいつまで続くしたひたてん、
したしたしたしたしたひた、てん
|
. |
河野裕子(妻)は、オノマトペが本当に上手い歌人でした。
河野裕子
ちりひりひ ちりちりちりちり ひひひひひ
ふと一葉笑い出したり神の山
|
. |
紅葉が始まって、しーんとしている中、紅葉が始まったようです。どこかで「ちりひりひ」と葉っぱが動いているようです。そのうち、一斉に全山が笑い恥じ間々した。一葉をきっかけに全山が笑い出したような不思議な詩です。