考える読書
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2023.4.22


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同じ本を読むのなら
あらすじを辿るだけではなく
今後の生活を豊かにする
そんな価値ある読み方をしたいものです。
現役時代
授業中に幾度となく語りかけた内容です。




考える読書


 松江市立第四中学校「山本博行くん」の話が、『君たちはどう読んでいるか』(松尾弥太郎)で紹介されています。山本君は「考える読書」を重ねることによって、ぐんぐん成績が向上しました。

 山本君が実践した「考える読書」とは、いったいどんな読書の方法なのでしょうか?

 文章に書かれている内容に沿って、あれやこれや「独り言」をつぶやきながら読み進めるという読書です。もう一人の自分とおしゃべり(対話)する読書です。筆者と対話する読書でもあります。

 このように、独り言をつぶやくことを専門用語で「内言」と言います。授業では「広げ読み」「生活読み」と、生徒には説明してきています。

 本をたくさん読むことも大事です。どんどん本を読んで、知識を蓄える(教養を高める)ことも大事です。しかし、読書の心得として「考える読書」こそ、将来に生きてはたらく読書の方法です。

 以下に内言の例を示します。


 移ろい変わることのない「永遠の幸福」というものがあるであろうか。神を信じる人たちは、神によって、神の中に生きることによって、それを得ようと願った。遠い聖者たちの伝記を読むと、そういう幸福があったように見える。それを世の常の「幸福」と区別して「浄福」と言う場合がある。

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【内言の例】
◎ なるほど、幸福には「一時的な幸福」と「永遠に続く幸福」とがあるのかぁ〜。そういえば「入試で合格したとき」とか「試合で勝ったとき」とか、長続きしない幸福は確かにあるなぁ〜。

◎ 「永遠の幸福」とは、いったいどういう幸福なんだろうか? この本を読んでヒントを得たいものだ。先を読むのが楽しみだ。

◎ 神を信じることによって「永遠の幸福」を得るとは、いったいどういうことなんだろうか? そういえば、宗教団体に所属している教え子が「この宗教と出会えて、私はとても幸せです。」と、生き生きとした表情で話していたなぁ〜。あれはいったいなんだろう? でも、筆者は「あれは幻だ。」と言っている。それはどうしてだろうか、……?

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再び
国語が苦手な人に


 漢字のマスターはまずまずなのに、国語が苦手な生徒が実際に存在します。そういう生徒に共通していることはどんなことかと考えてみました。

@ 「読む」という体験が不足している。
A 身の回りの事柄に挙見・関心が低い。「別に……」「ふつーです」「特にに感想はありません……」など、何事につけて考えをめぐらせる姿勢に欠けている。

 @Aを同時にクリアーするためには、何と言っても「全身全霊をかけて、そこにある文章を読む」体験を積むことです。これを抜きにして「読解力」は語れません。

 普段ろくに文章(本)を読まない者が、「読解力のレベルを高めたい。」というのは、しょせん無理な話です。ただし、ただ単に「たくさん本を読む」ことが大切なのではなく、「考えをめぐらせながら読む」心がけが肝要です。

 こういう「広げ読み」こそ、読書が単なる「知識の吸収」に終わることのない、望ましい読書の姿です。読書が「生活の糧」となるとともに、自分の心を豊かにしてくれます。

 たとえ読んだ内容は忘れても、読んだ体験が「血肉」として残り、今日の自分の考え方や生き方に影響を与えています。

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寄り道
「動物園」


振るとカラン と音がする
たぬきも さるも ごいさぎもくまも
風が木の葉をころばすのをながめている

            

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 上の詩は、大学時代の学友Kくんが学生時代に発行した、自作詩集『海』の中に掲載されている作品です。

 学生当時、「詩の心得」に疎かった私は、彼に失礼な質問をしました。「けっきょく、この詩で何を訴えたかったんだ? もっとかみ砕いて話してくれよ。」

 この問いかけに対してK君は答えました。「そんな無茶な質問はない。おれは「動物園の夕暮れ」をどう表現したらいいものかと、何日もあれこれ考え抜いた。苦しんだ末に、やっと「これだ!」と納得出来る表現ができた。それが、この詩なんだ。それなのに、これ以外の言葉で説明しろなんて、無茶な話だ。この詩で烏田が分からなんだら、それは仕方のないことだ。あきらめな。」

 だいたいこんなやりとりでした。私は彼の言葉にひどくショックを受けました。そして「詩の本質」に触れた思いがしました。

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教え子の俳句作品


立ち上る煙の多き秋の空
野良犬の白き息さえ目にとどまれり
秋過ぎて風が寒さを連れてくる
部活終え風に吹かれる伸びかけの髪
ふきのとう小さな体またひとつ
夕立やアユ飛び跳ねて夏の川
ふきのとう嬉しそうに春告げる
赤とんぼ夕日に向かって消えていく

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