漢字
この豊かで奥深い世界

.

2022.10.08


コメントの部屋へもどる





石井式漢字教育


 島根県国語教育研究大会で2度、研究発表を経験しています。1度目は「解字からの漢字教育」、2度目が「漢字力と読解力の相関関係」です。

 漢字力と読解力とは相関関係にあるということは、わざわざ研究しなくても誰でも予想出来ることです。しかし、敢えて研究テーマにすることによって、漢字教育(漢字のマスター方法)に注目してもらいたいという意図がありました。

 私自身の小中学校時代を振り返ると、宿題「漢字百字練習帳」など漢字学習にはよいイメージが残っていません。苦しく辛い印象しか浮かんできません。もっと楽しくやり甲斐を持って学習出来ないものか?

 この課題を念頭に、大学時代の卒業論文は「字源からの漢字教育」を取り上げました。とりわけ「石井 勲」氏の研究実践に注目し、著書は片っ端から読みました。

 石井式漢字教育に関して、(故)石井先生の考え方の一端を以下に紹介します。


 言葉の豊富な子は知能が大きく伸び、情緒が安定します。そして感性や情操の豊かな子に育ちます。

 内容豊かな言葉をたくわえるためには、(日本語の場合)“豊かな漢字力”を身に着けることが重要です。

 漢字がよく読めることを前提とした十分な国語力があれば、それを柱にものごとを理解する確かな基礎能力が身につき、あらゆる教科の学習がスムーズになります。

 子ども達は4年生を境に、授業に付いてこれる子とそうでない子にはっきり別れます。その原因は、幼児期からたくさん本を読み、文章を読みとる力が育っているかどうかで決まります。

 日本語は、音声で「はな」と言っても「花」もあれば「鼻」もあり、「はし」と言っても「橋」もあれば「箸」のあるように、「同音異義語」の多い言語です。
 したがって幼児に言葉を教えるとき、口から発する瞬間に消えてしまう音声で教えるよりも、「目で見える言葉」、「一字で一つの言葉を的確に表す文字」=漢字を使って教えれば、正しい言葉を効率よく教えることができます。(幼児期からの漢字教育[読み先行学習])

.

 幼児からの漢字教育(動画6分);石井勲

.


【漢字は、表音文字 & 表意文字】

@ 腕 胸 腹 背 肩 肘 肱 腰 股 膝 脚 …… 胃 腸 膵臓 脾臓 肝臓 胆嚢 膀胱

A 剣 刈る 剃る 割る 削る 裂く 剔る 剥ぐ 刻む 別れる 刺す 解剖 創傷……

B 青 清らか 晴れ 精米 情け 請願 静か 画竜点睛 鯖


青()  丹石から生まれる(きれいな)青色

清らか  きれいな水 ⇒きよらか

晴れ  太陽(日)がきれいに見える ⇒はれ

精米  米ぬかを取り除いた白い(きれいな)米 ⇒精米

情け  濁りのないきれいな(青)心(立心偏)

請願  真心込めた(きれいな)言葉で言う ⇒人にものを頼む(請う)

静か  争いのない穏やかな(きれいな)状態 ⇒静か

画竜点睛  「点睛」の「睛」は瞳。濁りのないきれいな所 ⇒瞳

鯖  青い綺麗な色の魚 ⇒さば




【熟語】 ……意味のある漢字同士を組み合わせて、新しい単語(熟語)をどんどん造ることが出来る。

@ 郷里  郷愁  郷土  郷俗  郷約  郷校  他郷  帰郷  在郷  異郷  望郷 

A 開国  開店  開城  開場  開封  開通  開票  開校  開講  開港  開口




【クイズ】

@ かいじょうのかいじょうはけさかいじょうした。

A うらにわにはにわにわにはにわにわとりがいる。

B そうすいかんのこしょうのためだんすいします。

解答


@⇒階上(海上)の会場は今朝開場した。

A⇒裏庭には二羽庭には二羽鶏がいる。

B⇒送水管の故障のため断水します。



漢字力と読解力の相関関係
〜「アトランティスの謎」の文章中の漢字と読解〜

与えた文章の「漢字の読み」テスト 読解テストの平均点 人 数
95点 〜 100点 55.8点 14名
90点 〜 94点 49.6点 16名
85点 〜 89点 38.2点 5名
80点 〜 84点 28.0点 3名
70点 〜 79点 24.0点 3名
00点 〜 69点 10.0点 1名
〜頓原中学校勤務中の調査〜




漢字のマスター


 ご覧のとおり、一目瞭然です。

 現役時代、中学3年生には国語の授業を使って、島根県高校入試の過去問を10年前にさかのぼって行ってきていました。入試問題は、おおむね平均点が50点台半ばになるよう作問されています。

 学年によって違いますが第一回目は、クラス平均が45点程度が一般的です。ところが、解答のコツを伝授しながら回数を重ねていくうちに、最終的にはクラス平均70点前後にまで伸びます。

 これは読解力が伸びたというより、高校入試問題への対応力が伸びた結果です。近年、全国学力学習状況調査に関して「リハーサルテスト」がマスコミで取り上げられています。さもありなん、です。点数や順位を公表すれば、避けられない事態ではないでしょうか?

 さて、ところでリハーサルテストをいくら重ねても点数が伸びない生徒がいます。その大半が、漢字力のない生徒。文章や設問が読めたり理解出来たりしなかったら、いくら読み方指導をしてもどうにもなりません。

 したがって、結論です。もっともっと小学校低学年段階から「漢字の習得」に時間と労力を費やすべきです。「主人公のこのときの気持ちは?」とか「この作品の主題は?」とかに時間をたっぷりとかけるより、しっかり(漢字が)読める、意味が分かることに労力を費やすべきです。その方が、小学校高学年以降の読解力の飛躍的な伸びが期待出来ます。

 ちなみに、私の低学年「国語」を受け持った経験では、小学校低学年は「字源からの指導」は子ども達の興味をそそりません。もっぱら「読み先行」学習です。教科書教材に出てくる「新出漢字」にたっぷりと触れさせておいた後、ひと息入れて「書き」を教えると、習得ががぐんとスムースに行きます。子ども達も漢字に親しみと自信とを感じてくれます。

 されにいえば、乳幼児期から「絵本」によって文字に見慣れていると、ひらがな習得へのハードルがぐんと下がります。

 (漢字に)ルビが付いている本を幼いときからどんどん読んでいると、その後に学習する「漢字」習得のハードルが下がります。労少なくしてマスター出来ます。

 小学校中学年からは「字源指導」も有効な手段の一つとなります。同時に、(負担の少ない)漢字小テストを毎日毎日、愚鈍に繰り返すことが、漢字マスターのコツだと教職経験から学んだことです。子ども達は80点以上(出来る子は百点)を取り続ける実績を積む過程で、漢字に対する自信と興味を培ってくれます。

 私のいちばんの驚きは、赤来中学校1年生Y子さんです。毎時間積み重ねた漢字10問小テスト、一年間で約130回、すべて満点でした。しかも、長期休業明けの「漢字百題テスト」も全て満点! たいへんな自信を付けたはずです。

 ちなみに、80点以上取り続けるとなると、おおむねクラスの7割以上が該当します。うまくクラスの雰囲気を醸成すると「競い合う姿」が常態化し、学級集団ごっそりと漢字力を引き上げることが出来ます。

.












幼児期の漢字マスター力
〜漢字(表意文字)の底力


 「石井勲」式漢字教育では、幼児期から「漢字」に触れさせます。ひらがなは覚えにくい子も、漢字の読みなら抵抗がない。これが石井氏の持論です。

 実際にわが子(長男)で実験してみました。4歳頃にはひらがなが読めていたので、そこで毎日、「山」「川」「水」「日」「月」「木」「鳥」「犬」など簡単な象形文字から5文字ずつ、読みを教えていきました。

 孫(長男)にも、5歳の時に試しました。お見事、約百文字をあっけなく読めるようになりました。しかも、時を隔てても忘れない!

 漢字は「文字の保持力」が違います。漢字は幼児にとって「絵」のようなものかも知れません。順調に120文字を超え、「石井勲理論」は真実だと確信し始めた頃、長男の場合、問題が起きました。

 やおら「この勉強をやったら、○○してくれる?」など、交換条件を出してきました。実験の成果がはっきり分かったこともあって、この時点できっぱりと「漢字マスターの実験」は辞めました。

 孫の場合は、百文字を超えたところで、(長男の例があったので)こちらから辞めました。

.













日常会話は問題ないのに……


 校長になってから発達障害の子(中学生)を相手に、国語の取り出し授業を担当しました。2人相手の時と1人相手の時とありました。

 その2度とも、大きな壁にぶち当たりました。該当生徒3人とも、語彙が圧倒的に不足しているのです。3人とも日常会話は、ほとんど問題ありません。

 しかし、問題点発覚! 漢字の読みをパソコン(3人とも異状に興味津々)を使って学習をしていました。ところが小学校3年生にさしかかると、俄然ペースダウンです。

 原因は、語彙がきわめて貧相であること。小学校3年生ともなると、次のような熟語を伴って「漢字」が登場してきます。

 悪事 暗黒 岸辺 起床 来客 急用 曲線 苦痛 次回 使用 現実 勝者 住居 乗車 真実 他人 短所 熱湯 配布 顔面 和服 …… 去る 商い 注ぐ 定める (みやこ (わらべ (やまい 放つ ……


 読書とは無縁の生活を重ねてきている子ども達です。それまでの日常生活ではおよそ耳にしたり眼にしたりすることのない熟語が、新出漢字とともにバンバン登場します。

 そうなると外国語を勉強しているようなものです。読み方と同時に漢字そのものも、全く定着しません。足踏み状態が続き、そのうち漢字そのものを投げ出してしまいました。

 語彙が不足していると、思考回路も短絡的な傾向があります。「うぜぇ〜」「ぶっころすぞ」「ださっ」「やべぇ〜」「むかつくぅ〜」など、自分の心をも蝕むような単語がぼんぼん飛び出します。乳幼児期から、優しい言葉、美しい言葉に触れさせておく重要性を痛感しています。日常生活に登場しない、豊かな語句や言い回しに親しませておく必要性を痛感しています。

 ちなみに、彼らに課してきた学習課題は、「漢字の読み」「音読」「名文暗誦(俳句・短歌など)」「簡単な話の聞き取りと再現」「(題を与えられて書く)短い作文」でした。これら全部を集中してやると、30分程度で終わります。終わったら、パソコンゲームをしていいと、張り合いを持たせて取り組ませていました、……。

 この子らは、今では立派な若者。独り立ちした一社会人として頑張っています。学校を卒業してから、3人とも「もうちょっと真面目に勉強しておきゃぁよかった。」と漏らしたことがあります。 ……そうなんです、私にもう少しパワフルな指導力があれば、何とかなったかも知れません。

.











漢字大好きにしてやりたい!


 保育所に勤務していたとき一時期、年長児(5歳児)にプレゼンのテーマとして「漢字」を取り上げました。取り上げたのは(簡単な象形文字)30字です。

 このときをきっかけに、漢字一大ブームがわき起こりました。昼休み時間「自由学習の時間」を店開きしていましたが、ひらがな・カタカナをマスターした子が、問題プリントに「漢字」を加えて欲しいと申し出てきました。

 迷った末に、せっかくやる気満々の時期を逃す手はないと考え、上記30文字(漢字)の「読み方をひらがなで書く」プリントを作りました。幼児は友達と競うことが大好きです。というより、幼児は競い合う存在です。チャレンジする子が続出! 14名のうち、5名〜7名がこのプリントに幾度となく取り組み続けました。

 たいした実践とは言えませんが、「漢字大好き」にして小学校へ送り出したという実感(充実感)は残っています。

 文字(母国語)の読み書きが出来るようになりたい。日本の場合、「ひらがな」だけでは日常生活に大いなる支障を来します。

 日本人にとって漢字は、抽象語をマスターするカギとなっています。抽象的な内容、簡潔明快な内容を表現する語句は、大半が漢字を伴った「漢語」です。漢語は漢字でマスターしたり読んだりしないと、理解がおぼつきません。

.