日本語の特色
[bR]

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2019.11.17(日)


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これまでは、
@語順
A関係代名詞

B主語の省略
C敬語
D男女の言葉の違い
E終助詞

を取り上げました。
今回はその続きです。



F 格助詞・副助詞


 ぼく 本 ノート 彼 郵便で 東京から 大阪 送りました。

 格助詞とは、助詞の一類。体言または体言に準ずる語に付き、その語が他の語に対してどのような関係に立つかを示す。 と辞書では説明されています。

 一方、「副助詞」は(辞書の説明では)「助詞の一つ。種々の語に付き、それらの語にある意味を添えて、副詞のように下の用言や活用連語を修飾・限定する類の助詞。」と解説されています。

 「さえ」「まで」「ばかり」「だけ」「ほど」「くらい(ぐらい)」「など」「やら」などがあります。

僕が言う。
⇒僕
言う。
⇒僕
まで言う。
⇒僕
ばかり言う。
⇒僕
だけ言う。

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 名称は「格助詞」「副助詞」と、「助ける」という補助的な意味づけをされています。確かに「自立語」に付属的に位置して、自立語同士をつなぐ役割を演じています。

 しかし、英語など語順によって主語・述語・修飾語・目的語などが決まるのに対して、日本語は語順ではありません。格助詞・副助詞が主語なのか述語なのかを示します(決定づけます)。 ……日本語にとって、格助詞・副助詞は文章内容を決定づけるほど重要な役割を演じているのです。

 例えば、「ぼく」「父」「車」「山」がどんな関係にあるのか示します。

⇒ ぼくの 父が 車で 山に 行きました。
⇒ ぼくと 父は 車で 山へ 行きました。
⇒ ぼくや 父は 車を 山に 持って行きました。
⇒ ぼくを 父が 車で 山に 運びました。
⇒ ぼくだけ 父に 車で 山へ 連れて行かれました。
⇒ ……(他にもいろいろあります、省略。)


 また、この格助詞・副助詞があるので、語順が自由になるのです。

⇒ ぼくと 父は 車で 山へ 行きました。
⇒ ぼくと 父は 山へ 車で 行きました。
⇒ ぼくと 父は 山へ 行きました 車で。
⇒ 父と ぼくは 行きました 車で 山へ。
⇒ 行きました ぼくは 父と 車で 山へ。
⇒ ……(他にもいろいろあります、省略。)


 日本人の祖先は、何とも便利な品詞を発明したものではあります。いや、便利かどうかは検証し切れていませんが、少なくとも「柔軟性のある言語」ということは確かです。

 蛇足ですが、詩歌の技法として「倒置法」があります。この自由な語順(格助詞・副助詞の存在)ゆえ成立しています。


              


前田夕暮
向日葵(ひまわり)は金の油を身にあびて ゆらりと高し日のちひささよ

与謝野晶子
金色のちひさき鳥のかたちして 銀杏散るなり夕日の丘に

若山牧水
見てあれば一葉先づ落ちまた落ちぬ 何おもふとや夕日の大樹

石川啄木
病のごと
思郷のこころ湧く日なり
目にあをぞらの煙かなしも



         わたしを束ねないで

新川 和江

わたしを束ねないで
あらせいとうの花のように
白い葱のように
束ねないでください わたしは稲穂
秋 大地が胸を焦がす
見渡すかぎりの金色の稲穂

わたしを止めないで
標本箱の昆虫のように
高原からきた絵葉書のように
止めないでください わたしは羽撃き
こやみなく空のひろさをかいさぐっている
目には見えないつばさの音

わたしを注がないで
日常性に薄められた牛乳のように
ぬるい酒のように
注がないでください わたしは海
夜 とほうもなく満ちてくる
苦い潮 ふちのない水

わたしを名付けないで
娘という名 妻という名
重々しい母という名でしつらえた座に
坐りきりにさせないでください わたしは風
りんごの木と
泉のありかを知っている風

わたしを区切らないで
,(コンマ)や.(ピリオド)いくつかの段落
そしておしまいに「さようなら」があったりする
手紙のようには
こまめにけりをつけないでください
わたしは終りのない文章
川と同じに
はてしなく流れていく 拡がっていく
一行の詩
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G 擬音語・擬声語・擬態語


 物音にしても、鳴き声にしても、人間の発音に置き換えるわけですから、国(言語)によって微妙に異なるのは、自然とも言えます。それにしても、国によっての違いは、興味深いものがあります。

 一方、「擬態語」については、日本語は実に豊富です。しかも、日本語においては、簡単に新語が造られ、組み込まれやすい特徴があります。

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 擬音語、擬声語・擬態語の比較については、以下(欄外)に一例を掲載しました。

 なお、子ども達に詩を作らせると、大人の常識を越えた世界で、どんどん生み出します。たとえばの例を(以前担当していた小学校2年生から)一部を抜粋する形で紹介します。


はしっているときは
しゅしゃしゅしゃしゃっしゃっ
ふつうにあるいたら
どんどんぺのぺのぺの

            

おおだいこは、ぼんぼんぼん
こだいこは、ちゃちゃちゃちゃ
まつりのたいこは、たんたたたん
まつりのおおだいこは、ぽんぽんぽん
しろほんの音は、ぱんぱんぱん
そとのけしきは、けむりのようだ。

            

おこったときのくしゃみは、ぐしゅん。
かなしいときは、くしゅん。
たのしいときは、はくしょん。
ふざけたときは、にしゅん

             

あめのときは、にゅんにゅんにゅん。
はれたひには、ひゅんひゅんひゅん。
ふつうのひには、はぁんはぁんはぁん。
おこったひには、ぐにゅんぐにゅんぐにゅん。

             

ピアノの音が わらってる
にがおえみたいに わらってる
たいこのおとは たんたんたん
おなかを たたいているようだ
てっきんが ぴんぴんぴん
まるで きらきらぼしのようだ

             

やさしい気持ちは
ふんわりしてる
こわい気持ちは
ぐちゃぐちゃしてる
さみしい気持ちは
ぶるぶるしてる

             

おこったときは、どんどんどん。
かなしいときは、とことことこ。
たのしいときは、たかたかたか。
ダンスのときは、ぐきぐきぐき。

             

読書ノートは
ぴらぴらぴら
かんじがくしゅうノートは
しゅるしゅるしゅる

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 ちなみに、擬態語については、日本語ほど豊富な国はありません。

からから 笑う
かぱかぱ 飲む
さくさく 落ちる
まじまじと 眺める
いじいじ 考え込む
きりきり 痛む
ちらほらと 舞い落ちる
ひゅんひゅん 降り注ぐ
すかすかの 道ばた
ぐだぐだと 生きる
じゃらんじゃらん 降る
けたけた 笑う
ほかほか 立ち上る
ぽちぽちと 打ち鳴らす


 とりわけ詩歌の世界では無尽蔵、表現力も豊かです。その理由の一端は、どんな新語・造語も、すぐに文中に取り込まれやすい、日本語の柔軟性(助詞などの存在)にあります。


梅が香りに のっと日の出る 山路かな

春の海 ひねもすのたり のたりかな

昨日から ちょつちょと秋も 時雨かな

どんみりと 樗や雨の 花曇り

ひやひやと 壁をふまえて 昼寝哉

ひよろひよろと 転けて露けし 女郎花

ほろほろと 山吹散るか 滝の音(以上、芭蕉)

うまさうな  雪がふうはり  ふうはりと(一茶)

おりとりて はらりとおもき すすきかな(蛇笏)

街道を キチキチととぶ ばったかな(鬼城)

残雪や ごうごうと吹く 松の風(鬼城)

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〜擬音語〜

吹かれる rustle The leaves rustled in the wind.
カサカサ 木の葉が風に吹かれてカサカサと鳴っている。
器械などの音 clack I hear the clack of someone working on a machine.
カタカタ 誰かが何やらカタカタいわせているのが聞こえる。
揺れる rattle The window rattled in the earthquake.
ガタガタ 地震で窓がガタガタ揺れた。
時計 tick I could not sleep and listend to the ticking of the clock all night.
カチカチ ゆうべは眠れず、一晩中時計のカチカチという音に耳を澄ませていた。
グラスなどが
ぶつかり合う
clink They clinked their glasses for cheers.
チャリン グラスをチャリンと言わせて乾杯した。
ぶつかる clatter The clatter of dishes is heard from the hall.
ガチャガチャ 広間から皿のガチャガチャという音が聞こえてくる。
割れる crash The ball crashed a windowpane.
ガチャン ボールが飛んできて窓ガラスがガチャンと割れた。






動物の鳴き声
〜擬声語〜

アヒル ガーガー quack
The ducks are quacking in the pond.
アヒルが池でガーガー鳴いている。
ワンワン bow-wow ♪
Bow-wow! barked the old dog.
「ワンワン」、とその年老いた犬は吠えた。
キャンキャン
(子犬)
yelp
The puppies are yelping.
子犬がキャンキャン鳴いている。
ウーッ(うなり声) woof
The dog woofed in surprise.
犬は驚いてうなり声を上げた。
ウォーッ(遠吠え) howl
I heard a dog howling in the distance.
遠くで犬の遠吠えの声を聞いた。
クンクン whine
The dog whines trying to get his meal.
犬はクンクン鳴いてエサをもらおうとしている。
ウグイス ホーホケキョ warble
A nightingale was warbling in a beautiful voice.
ナイチンゲール(鳥)が美しい声で鳴いていた。
モー moo; low
The cow moos in the morning.
牛は朝モーと鳴く。
ヒヒーン neigh; whinny
The horse neighed, and ran off at full speed.
馬はヒヒーンと鳴くと全速力で走り去った。
ケロケロ croak
Frogs are croaking in the pond.
池でカエルが鳴いている。






歩く場合の比較
〜擬態語〜

うろうろ hang around With nothing to do, the boss was hanging around in the office.
歩く 何もすることがない上司は事務所の中をうろうろ歩きまわっていた。
すごすご dispiritedly When the smaller dog growled at the bigger one, the bigger ran dispiritedly.
逃げる 小さいほうの犬がうなると大きいほうの犬はすごすごと逃げて行った。
すたすた briskly When he heard a knock, he walked briskly to the door.
歩く トントンという音がしたので彼はすたすたとドアまで歩いて行った。
するり slip out The moment I caught the boy, he slipped out right under my arm.
逃げる 捕まえたと思ったとたんに少年はするりと逃げた。
てくてく hoof it I missed the last bus and hoofed it home late at night.
歩く 最終バスに乗り遅れ、夜更けにてくてくと家路を歩いた。
どかどか pound into; thud into The police pounded into the suspect's house.
来る 警察はどかどかと容疑者の家に押しかけた。
とことこ toddle On my half way home I knew an ownerless cat was toddling after me.
歩く 家に帰る途中で野良猫がとことこついてくるのに気がついた。
とぼとぼ plod; trudge An old man was plodding along in the dark.
歩く 老人が夜道をとぼとぼと歩いていた。






  なお、「接続助詞」については取り上げませんが、
        これは便利なようで
        実は「悪文」(=センテンスを長くする)を作る原因ともなっています。
        気を付けたいと思います。


もっと勉強すれ
成績も上がるのに
帰ったら
テレビばかり
観ていたり
テレビゲームをしていたりし
怠けていたので
きょうから
心を入れ替え
机に向かおうと思います
………………。