地区の農業が崩壊する
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2019.6.30(日)


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我が家の農業


 今朝は8時半から、住んでいる地区(上来島33戸)の「中山間地域等直接支払制度」(補助金制度)に係る作業(草刈り・ひまわりの植え付けなど)の予定でした。が、あいにくの雨。延期となりました。

 一方、先日(6/26)の毎月定例「集金常会」で、農業法人化の話が出ました。十年前ごろから、上来島地区では「集落営農」が始まっています。本日予定だった作業も、この一環です。今回は、これを一歩進めて「農業法人化」に移行しようという提案です。

 わが家にも約80アールの田んぼがあります。私が若いときは120アールぐらいありました。が、広域農道新設計画のルートに当たり、度重なる説得に亡父が折れて提供。現在に至っています。

 父は復員してから農業一筋。50余年間、真面目にひたむきに農業に打ち込み、平成15年(16年前)に他界しました。私が中学生ごろから、父は「いずれ将来、農業はダメになる。お前はしっかり勉強して、農業以外の道に進め。」と語っていました。

 その流れの中で、東京の高校を体験しました。田舎者の私は、まさに井の中の蛙でした。高校時代に弁護士の夢を諦め、自らの学力と進路希望を付き合わせて教育学部に進学しました。

 後から思うに、父は先見の明があったと言えます。父が生前に見せてくれた「青色申告」(見せてもらったのは昭和60年前後)によると、米作りは明らかに赤字(農業機械償還代が大きい)。父の話では、昭和40年代からの
酪農(多いときで11頭)、昭和50年代後半以降のハウスメロンがあったから、我が家の農業は何とか成り立っていたいたとのこと。

 その父が平成15年春、急逝しました。79歳でした。教員の私には物理的にも技術的にも農業が出来ようはずはありません。年老いた母は即断即決、農業機械を売り払い、近所の方に米作りを依頼しました。

 現在、その方のおかげで毎年、我が家の田んぼには早苗がそよぎ、秋には銀色の稲穂が風に揺れます。

 しかし、その方が何年先まで田んぼを維持してくださるのか? 辞退された後に、代わって米作りをしてくださる方がおられるのか? ……暗雲がたれ込めています。

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中山間地域等直接支払制度


 中山間地域等は流域の上流部に位置することから、中山間地域等の農業生産活動が活発におこなわれることにより、洪水防止・土壌浸食防止・良好な景観形成等の多面的機能を発揮し、下流域の都市住民を含む多くの住民の生命・財産と豊かな暮らしを守っています。

 しかし、中山間地域等では平地に比べ自然的・経済的・社会的条件が不利な地域であることから、高齢化の進行や担い手不足などにより、中山間地域等の農地では耕作放棄が深刻化しており、このまま放棄すれば住民全体にとって大きな損失が生じることが懸念されます。

 このような状況を踏まえて、適切な農業生産活動が継続的におこなわれるよう、また中山間地域等が有する多面的機能を確保するため、農業生産条件に関する不利を補正するための支援として平成12年度から、この中山間地域等直接支払制度が導入されました。

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農水省HPより抜粋








米は買った方が得!


 和牛を使って田んぼの作業をし、手作業で田植えと稲刈りをしていた時代は、重労働の見返りとして米の収量分の収入がありました。

 1980年頃から「
田植機」が登場、2000年頃から乗用田植機が登場して、今日に至っています。価格は200万円〜300万円程度。

 一方、「
コンバイン(稲刈り機)」も並行して登場し、どんどん進化して現在があります。価格は(さまざまですが)900万円〜1,000万円。

 この他に「
トラクター」は農作業に欠かせません。ピンからキリまでありますが、おおむね 300万円〜500万円。この他にも、附属の耕作部品類があります。

 これら全てをそろえるとなると、1,500万円は必要です。現在、米(玄米)の価格は、平均して60Kgで 15,000円程度です。これは、大人一人が一年間に食べる量とされています。

 単純計算すると、一家4人が一年間に消費する玄米が6万円(240Kg)、農業機械代 1,500万円で計算すると……

※  1,500万円 ÷ 消費玄米(年)6万円=250年!

 こうなると、農家に田んぼがあっても米作りをせずに、玄米を買った方が圧倒的に割安です。実は、この話をされたのは赤名短歌会のSさんです。高齢(80歳)になったので去年、農業機械を全て処分。米作りを退職されたそうです。

 そのときに、冷静になって計算したら、自分は何と「田んぼの維持のためだけに農業をしてきたのではないか!?」という悔恨の念に嘖まれたそうです。

 農業が機械化され、農作業の労働力が激減すると共に、大きく効率化もされました。その見返りとして、米作りで利益を出すことは困難になったという大きな流れです。

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集落営農
オペレーター制度


  集落営農とは、集落単位で農業を営むことです。農業分野では高齢化や後継者不足などが課題となっていることから、近くに住む人同士が共同で農作業にあたる集落営農が広がっています。

 複数の農家が共同作業(農業機械の共同利用)することにより、一気にコストダウンとなります。お互いに助け合うことが出来ます。この事業に政府も大きな補助金を出しています。

 農林水産省の調査によると、2018年の全国の集落営農数は1万5111。2005年の1万63と比べると、約1.5倍に増えています。

 上来島地区でもこの制度(補助金)を利用し、Yさんが中心となって農業機械を購入すると共に、田んぼに関わる危険・不備の維持工事を行ってきています。

 しかし、現在の「オペレーター制度」では数年後には立ち往生するとのこと。いちばんの理由は、オペレーターの高齢化です。

 オペレーター制度とは、依頼された農家に出向き、時間報酬をもらって農作業をする制度です。この際、集落営農組織で購入した農業機械を使用します。依頼した農家は、燃料代も支払います。

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農業法人化になったら?


 先日、Yさんが提案した「集落営農」から「農業法人化」の話は、以上の経緯を経て出されたものです。

 集落営農では草刈り機・田植機・トラクター・コンバインなど農業機械を共同で所有するので、購入や維持に掛かる一人当たりのコストを削減できます。

 また、集落の中には高齢者や若い兼業農家などいろいろな人がいるので、作業を役割分担したり、熟練高齢者から米作りのノウハウを伝授してもらたりする機会になります。新たな視点で加工商品の企画を提案したり、農業の未来像を話し合ったりという機会にもなります。

 ところが、オペレーターの人数は5人、いずれも70歳以上。5年後、10年後を見据えたとき、上来島地区の集落営農はオペレーターの高齢化と人数減は避けられません。今後、若者がオペレーターになるという仮定は、まず皆無です。こうなると、現在の集落営農は自然崩壊を待つのみです。

 先日の会合(集金常会)では、先行き暗い話ばかり出ました。代表的だったのが、次のような意見です。

現状で、農作業で利益を出すこと自体が難しい。借金を抱えて苦しんでいる農業法人も少なくない。

儲けを出すのではなく、景観維持・田んぼ保全が目的では、農作業にやる気も出ない。

我が家の田んぼを維持するだけで精いっぱい。健康状態も悪くなる一方なので、いつ農業を辞めようかと毎年悩んでいる。法人化になっても、自分は協力出来ないので参加しない。

法人化になったところで、若者はそれぞれ職業に就いている。儲けも将来性もない農業法人に積極的に参加しないだろう。

法人化されたら、参加している家庭は農作業に(否応なしに)参加を強いられる。

それぞれ仕事があるので、農作業は週末(土・日)になるだろう。

今、30代〜40代の若者は、わが子が保育所〜高校生。特に小・中・高校生を持つ親は、週末はスポ小や部活動の手伝いや応援であくせくしている。農作業に借り出されるとなると、法人に参加しないだろう。

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座して待つのか?


 今回の集金常会では、結論は出ませんでした。

 地区としても、我が家の場合も、先行きは不透明どころか、暗雲が漂っています。いちばんの理由は、農業従事者の高齢化。そして、儲けが出ない農業を引き継ごうという若者が出てくる可能性がない。

 最後にYさんが言いました。「このままでは地区の農業は崩壊する。座して待つか、勇気と英断を持って「法人化」に向けて一歩前に進むのか。一刻も早く決断する必要がある。少なくとも『善後策を協議する場』を設けないといけない。協議題は『上来島地区法人化に向けて』としたい。とりあえず一口1万円で、法人化に向けて参加して欲しい。」

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以下
農水省のホームページより引用


農業法人のメリット


1)経営管理能力の向上

 経営者としての責任の自覚や意識改革を促進します。家計と経営をしっかり分けることで、ドンブリ勘定からの脱却し、財務管理が明確になります。

2)対外信用力の向上

 財務諸表を作成することにより、金融機関や取引先などからの信用が高まります。

3)経営発展の可能性の拡大

 幅広い人材の確保で、経営の多角化などの事業展開の可能性が広がり、経営の発展が期待できます。

4)農業従事者の福利厚生面の充実

 就農者への社会保険、労働保険などの適用による福利厚生の増進が見込まれます。労働時間や就業規則の整備、または給与制度による就業条件を明確化できます。

5)経営継承の円滑化

 農家の身内の後継者でなくても、従業員の中から意欲ある有能な後継者を確保することが可能になります。

6)新規就農の受け皿

 農業法人への就農希望者を従業員として雇うことができるので、初期負担なく経営能力、農業技術を習得することができます。

7)税制上のメリット

 役員報酬を給与所得とすることによって、節税できます。役員報酬は法人税において、損金算入が可能になります。

 また、所得税において、役員が受け取った報酬は給与所得控除の対象となります。青色申告法人に限り、欠損金を9年間の繰越控除できます。個人は3年間です。

 所得分配で、事業主への課税負担が軽減されます。 定率課税の法人税の適用で、税金負担の軽減ができます。

 使用人兼務役員の賞与は、損金として計上できます。

 退職金を損金として計上できます。 農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)を損金として計算できます。

8)融資限度額の拡大

 農業経営基盤強化資金の貸付限度額は、個人が3億円(複数部門経営は6億円)なのに対して、法人は10億円(常時従事者数に応じ、20億円)まで増額されます。

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農業法人のデメリット


1)税金の負担

 所得の少ない経営では負担が増大します。個人経営(農家)では、所得がない場合には所得税の負担はありませんが、農業法人の場合には、利益がなくても地方税(法人住民税)を7万円負担することになります。

2)決算の負担

 決算が企業会計規則によるため、手間が増えます。

3)会計の負担

 会計事務や税務申告を税理士に依頼する場合には、その経費の負担があります。

4)社会保険の負担

 社会保険などの加入に当たっては、経費の負担が必要となります。

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