なるか同一労働・同一賃金
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2016.2.7(日)


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下の図式と文章は
来週
中学生を対象に行う
要約学習で使う教材です。

今、国会で
同一労働・同一賃金が
話題の一つに上がっています。
今回は
このテーマを取り上げます。




文章化


@ 同じ仕事をしたら同じ賃金をもらう、これは極めて当たり前のことのように思えます。事実、欧米では「同一労働・同一賃金」の原則は厳格に守られています。一方、日本の場合は同じ仕事をしていても、非正社員(非正規労働者や派遣社員)の賃金と、正社員の賃金との間には2倍以上の格差があります。

A これは明らかな不公平です。どうしてこのような不公平が、日本では放置されているのでしょうか? いちばんの理由は、日本では正社員は定年まで雇用される「終身雇用」と、年齢とともに賃金が上がる「年功賃金」が保障されていることにあります。その見返り(義務)として、職種や職場の異動を含め、企業の人事で自由に動かされます。辞令一枚で日本各地(ときには海外)に転勤しなくてはなりません。非正社員は、その義務はありません。

B こういう経緯から、日本にあっては、依然として「同一労働・同一賃金」の実現が難しいと言えます。しかし2008年、日本は経済協力開発機構(OECD)から、正社員と非正規社員との格差を是正する旨の勧告を受けました。これを受け「同一労働同一賃金推進法」が、2015年9月9日の参議院本会議で可決・成立しています。今後は、徐々に「終身雇用」と「年功賃金」が解消に向かい、欧米並みの「同一労働・同一賃金」に近づいていくと思われます。

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同一労働同一賃金を実現する


 安倍晋三首相は先月の施政方針演説で、1億総活躍社会へ挑戦するため、「同一労働同一賃金の実現に努力する」と表明。「正社員と非正規労働者の賃金格差の是正」に取り組むことに意欲を示しました。また、2月5日の衆院予算委員会でも、「非正規の待遇改善は極めて重要だ。必要であれば法律を作っていくのは当然だ。」と法制化に意欲を示しています。

 「要約学習」の文章にあるように、欧米においては「同一労働同一賃金」が当たり前に実現しています。一般社員から係長へ、課長へなど、役職が変われば、それに伴って給与(年棒)も替わります。待遇・給与は、年齢や経験年数に関係ありません。仕事の内容に与えられます。至って単純です。

 一方、(善し悪しは難しいところですが)日本は伝統的に、正社員は「終身雇用」「年功序列」が定着しています。正社員にならない限り、この「恩恵」に浴すことは出来ません。

 この日本方式が「悪」か? というと、そう簡単に割り切れません。日本国民の特長の一つは「誠実」「実直」と言われています。そういう国民性に「終身雇用」「年功序列」はマッチしているように、私は思います。既に定着もしています。

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労働者派遣法


 このシステムに疑問が生じたのは、2008年(平成20年)の「リーマンショック」後だと、私は認識しています。「解雇」か「ワーキングプア」か、とマスコミが書き立てた時期です。結局「ワーキングプア」に舵取りをしました。会社は生き残りのために、正社員2人を雇う代わりに「非正社員」2人を雇用し、苦しい時期を乗り越えて今日に至っています。

 一方では、女性の社会進出も進みました。子育てを終えた女性(主婦)が、家庭生活に影響のない範囲で働くスタイルが増えました。いわゆる「パート」「アルバイト」の類です。これについては、雇用主も労働者も納得ずくとも言えます。

 他方では、派遣会社が全国各地に林立し、「派遣社員」がどんどん増えていきました。確かにリゾート地など、季節によって客数が違えば、それに応じた雇用をしないとやっていけません。派遣社員の方法は、一つのグッドアイデアです。

 問題は、これに乗っかって労働者を安価に雇用しようという企業の存在です。「労働者派遣法」が成立して、いよいよ雇用者の側が有利になりました。もはや派遣社員は、雇用の調整弁です。

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2015.06.30 報われない4割に増えた非正社員
2015.04.23 恵まれない非正社員の現状





学校の場合


 学校の状況を振り返ってみます。

 教員採用試験に合格すれば「教諭」として採用され、「終身雇用」「年功序列」が保障されます。希望して管理職試験に合格すれば、給与が一段上がるとともに、管理職手当がもらえる「教頭」「校長」という道もあります。

 一方、雇用の調整弁として「
一年期限付講師」があります。一般的には、学級定員の関係で「この学級は2学級か3学級か」はっきりしない場合、「一年期限付講師」を配置します。その他の理由で配置されることもあります。4月から3月までの契約となっています。

 その際、仕事内容は(校務分掌・部活動など)教諭とほとんど変わりません。それなのに、来年4月からどうなるか? 保障がありません。むろん、給与は教諭より安く設定されています。経験を重ねても、給与は頭打ちになります。 ……仕事や責任は同じなのに!

 この「一年期限付講師」は、年金支給が65歳にスライドするにしたがって、退職(60歳)からの空白期間を埋める、その方策の一つとして機能し始めています。すでに一般化している「
再雇用制度」です。今後は、ますます増えていくと思われます。

 「
非常勤講師」という配置もあります。多くは「産前産後休暇「育児休暇」「病気休暇」の教諭が不在の期間、配置となります。全くもって「雇用の調整弁」です。いつ解雇になるかは、休暇を取っている教諭次第です。

 音楽や家庭科など、授業時数が少ない教科の場合、小規模校には配置は困難です。こういう場合、昔は「免許外担当」が許されていました。が、今は厳しくなっています。ではどうしているかというと、家庭科の非常勤講師の先生が2校〜4校を兼務します。

 この他にも、近年は特別な配慮を要する児童生徒が増えたため、これらの子ども達への対応として、また教諭の負担を軽くするため、「
スクールサポーター」が配置になっています。一般的に「1時間1,000円」となっています。教諭と待遇(給与)の差は歴然としています。

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少子化問題
結婚に踏み切れない理由


 リーマンショック以降、企業が正社員を減らし、賃金を安く抑えられる非正規社員を増やしてきました。結果、非正規社員はどんどん増加。全労働者の約4割を占めるまでになっています。

 厚生労働省の2014年の調査によると、正社員の賃金が平均約32万円に対し、非正規は約20万円。非正規の賃金は正社員の約6割にすぎません。社会保障も、雲泥の差です。

 少子化とか、結婚年齢が上がってきているとか、結婚しない若者が増えてきているとか、社会問題となっています。こういう社会現象の根元の一つは、「非正規社員」の増加です。各種アンケート結果からも、はっきりしています。


男性の理由
1位・・・出会いがない
2位・・・自分の収入が低い/不安定
3位・・・1人でいる自由を無くすことがイヤだ
4位・・・結婚に適した相手がいない
5位・・・他人と暮らすのが面倒だ

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提供:Menjoy
未婚男女961人を対象
2014年02月13日調査


 企業には、リーマンショック以前の状態(しっかり正規社員として雇用する、退職まで雇用を保障する)に戻してほしい。結論は分かっています。しかし、社会の現状は先行き不透明。雇用する立場に立ってみれば、出来るだけ安い給与で人を雇いたい、いざとなったら解雇しやすい形にしておきたい、というのが正直なところです。

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やっぱり
日本型の雇用は崩れるのか?


 安倍晋三首相は、「同一労働同一賃金の実現に努力する」と国会で表明しました。ということは、日本古来の「終身雇用」「年功序列」を廃棄するということです。昨年成立した、「労働者派遣法」の趣旨とも相容れない気がします。心の内が見えません。

 確かに企業が成長しないと、雇用も生まれません。でも、労働者の生活を犠牲にして企業が生き残るという論理は、どこか違っています。明るい先行きが見えない昨今、大企業は設備投資を控え、貯蓄を殖やす傾向にあるとのこと。だから「デフレ脱却」との安倍首相。

 今夕のラジオ(NHK)で解説していました。「保育士と介護士が足りない。今後ますます足りなくなる。しかし、給与が低い。他の平均と比べて、月給が10万円もの開きがある。」とのことです。

 まさに、ごまめの歯ぎしり。この閉塞感を突破したい気持ちが、頭の中をぐるぐる回って、結論が出ないまま、今回のコメントを終えなくてはいけません、……。日本古来の「終身雇用」「年功序列」を残しつつ、「同一労働同一賃金」は出来ないものでしょうか?

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