教員生活を振り返って
(13)
H 赤来中学校
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23.3.27(日)


最初の部屋へもどる

勤務歴
赴任順 着任年度 着任時
年齢
勤務校等 職名 在職
年数
自宅からの
距離(Km)
1 昭和 49 23 大原郡 大東町立大東中学校 教諭 3 58
2 52 26 邑智郡 羽須美村立阿須那中学校 教諭 4 26
3 56 30 飯石郡 頓原町立頓原中学校 教諭 7 10
4 63 37 飯石郡 吉田村立吉田中学校 教諭 4 24
5 平成 4 41 (出雲市) 出雲教育事務所 指導主事 4 56
6 8 45 飯石郡 赤来町立赤来中学校 教頭 2 1
7 10 47 邑智郡 邑智町立君谷小学校 校長 4 30
8 14 51 飯石郡 赤来町立小田小学校 校長 3 3
9 17 54 飯石郡 飯南町立赤来中学校 校長 6 1


いよいよ最後の学校となりました。
小田小学校着任年度
新入生として迎えた子ども達を
9年後
今度は卒業生として送り出すという
運命的な経験をして
教員生活を終えました、……。




浦島太郎
〜10年ひと昔〜


 平成10年4月、赤来中学校を離れて7年間。校長昇任とともに、君谷小学校と小田小学校という、桃源郷のようなプレゼントをいただきました。

 そして、再び同じ学校(赤来中)に戻ってきました。しかし、あまりにも「中学校」が変わっていて、まさに浦島太郎。しばらくの間は驚きと戸惑いの日々を過ごすことになります。

 前回、教頭時代と一つ違ったことがあります。それは、女子生徒の大半が顔なじみ。初日から親しく話すことが出来たことです。スポ小時代(3年間)のふれあいが、こういう形で生かされるということは嬉しい出来事でした。

 ただ、着任した年の異動は、校長・教頭・教務主任・事務主任・養護教諭という、「一人配置」のポストが総替わり。私にとっても試練ではありましたが、教職員の皆さんも大変だったことと思います。

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「十年ひと昔」

〜○内の数字は、以下のコメントと関連しています。〜


@ 一つめは「中高一貫教育」です。飯南高校はすぐそばにあるのに、以前はほとんど交流はありませんでした。ところが、中高一貫教育が始まって当たり前のように、先生同士が行き来して授業交流(授業の補助)を行っています。

A 二つ目は評価(通知票)です。以前は十段階評定の一般的な評価が行われていました。が、赤来中では「レインボーチャート」と呼んで、7つの観点から、きめ細かに総合的な学力評価がなされています。学期末には五教科について、担当の先生との面談(学習カウンセリング)が行われています。

B 三つめは「選択教科」(生徒が自分で受けたい教科を選べる)です。特に3年生は3種類のべ12教科設け、週5時間行われていました。以前は予想だにしなかった、少人数授業が実現しています。

 その他、
Cパソコンルームの設置(パソコンを使った授業の導入)、
D
週3時間の新しい教科「赤来タイム」(総合的な学習の時間)の実施、
E
学力向上のための「サマースクール」などの開設とティームティーチングの導入、
F2年生「職場体験学習」3日間の実施、
G
沖縄への修学旅行(以前は京阪神)、
H
ALTの配置、
I
スクールカウンセラー(週一回)の派遣。

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以下は、このことに関わってのコメントです。


@中高一貫教育


 特に驚きは、「中高一貫教育」が導入されていたことです。いやはや驚きました。飯南高校の先生(特に数学と英語)が、当たり前のように中学校にやってきて、一週間に延べ10時間程度、ティームティーチングのスタイルで授業に入ってこられることです。

 逆に、中学校から飯南高校へ3教科(国・数・英)、毎週出かけ、授業に入っていることです。

 吹奏楽部に至っては、音楽担当が共通(籍は赤来中)ということもあって、週末は飯南高校吹奏楽部の皆さんが赤来中校舎にやってきて、合同練習をしています。当時は、県吹奏楽コンクールも合同演奏でした。

 前回勤務の時には、飯南高校は近くにはあっても、ほとんど交流はありませんでした。まして、両校の教員が相互乗り入れで授業をするなどということは夢想だににしなかったことです。「中高一貫教育」は、当時から観たら画期的どころの話ではありません。革命的です。

 一つは、赤来中の卒業生がこぞって飯南高校へ進学し、飯南高校も進路面で胸を張れる実績を上げ続けておられることです。以前は、特に成績上位の生徒は、町外へ進学する傾向にありました。

 そういう家庭は、毎月8万円以上の経済的負担があります。地元高校にとっても、地元住民にとっても、決していいことではありません。これが解消されたのは、中高一貫教育の導入無くしては考えられません。

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A評価(通知票)
〜レインボーチャート〜


 7年ぶりに赤来中に戻ってきて驚いたことの一つは、「評価」の方法です。

 一般的に、「学力が高い」とか「低い」とか話題になるとき、「知識・理解」をイメージしていることが多いようです。大学入試センター試験を頂点として、学力テスト(ペーパーテスト)でとれる点数を指しています。今、マスコミで話題になっているのも、大半が同じとらえ方だと思われます。

 驚いたのは、学習評価が「レインボーチャート」(学力を7つの視点で捉え、指導・評価に反映)を軸に行われるようになっていたことです。

 平成14年度に文部科学省の「学力向上フロンティアスクール」に指定されたのを機に開発し、平成16年度からは通知表の学習の記録欄には5段階評価の評定を載せ、評定や基準などの詳細はレインボーチャートに記載して渡すように大変革がなされていました。

 長い生涯を考えるとき、学校時代に蓄えた知識など応用する力がないと、単なる「物知り」でしかありません。また、科学技術の進展が早い今日、学校を卒業してからも、先生がそばにいなくても、自らの意志と力で学び続けることが求められています。課題解決能力こそ、生涯学習の理念でもあり、将来に「生きてはたらく学力」と言えます。

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B選択教科


 選択教科は、「新学力観」の理念に基づき、生徒の学習意欲を喚起するとともに、生徒の個性を伸長する目的で始められ、現行学習指導要領(平成10年改訂)において一気に時数が増えました。

 選択教科は、「子ども達の主体性を尊重する」理念の下、幼稚園の自由保育、小学校の生活科、総合的な学習の時間などとともに、導入された一面もあります。 ……何だか、食事のバイキングを連想します。一部、生徒に選択権が与えられたのです。

 「生徒に選択権を与えて、主体性を持たせた学習をさせる」という理念は間違っているとは言いません。が、もともと中学校は義務教育です。限られた授業時数です。そんな余裕はありません。例えば、英語や数学が週3時間で身に付くなど夢物語、そんな生徒は一握りです。

 問題点のもう一つは、学年1学級の学校にとって、例えば選択教科5つを準備すると、1時間の授業設定で、以前は1人でよかった教員が、同時展開で5人必要となります。それだけ教員の授業(時数)負担が増えています。

 ……こんな、理念先行で課題を抱えた「選択教科」は、赤来中のみならず、来年度より全国の中学校から姿を消します。

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F〜I


 F2年生「職場体験学習」3日間の実施については、たった3日間ではありますが、10年後、20年後を見据えて「きょうがある」ということを意識化させる上で、大きな役割を果たしていると思います。

 ただ、可能ならば「隗より始めよ」ではありませんが、まずは両親の「仕事」「仕事ぶり」を体験的に知る機会が先にあれば更に価値が高いと、個人的には思っているところです。

 G
沖縄への修学旅行(以前は京阪神)については、個人的には賛成出来かねる面があります。そのいちばんの理由は、高額すぎることです。以前と比較して、「準要保護家庭」が激増してるという実態もあります。しかし、学校(校長)の理念を示した上で行った2度にわたる「保護者アンケート」の結果は、圧倒的多数で「沖縄」でした、……。確かに、費用のことを度外視すれば超デラックスな修学旅行です。

   
            修学旅行
(22.12.1-4)


 H
ALTの配置については、この小規模校にあって1名が配置になっています。もっとも、小学校に「外国語教育」が導入されるにあたり、赤名小・来島小へも、毎週1日ずつ出かけています。素晴らしい配慮です。

 I
スクールカウンセラー(週一回)の派遣については、赤来中は県内でもきわめて早い時期に配置になっています。平成13年度〜14年度には、不登校・不登校傾向生徒が10人近くに上っていました。赤来中の実態をかんがみて、県教委はいち早く赤来中に配置したとされています。

 様々な事情があります。「学校に行かない選択肢」を認めないという訳ではありません。でも、二度と戻っては来ない黄金の時代、小・中・高校時代を自宅で過ごすというのは、あまりにもったいない。辛いこと、苦しいこと、自分の思うようにならないことも、てんこ盛りの学校です。また、学校でなくては味わえない楽しいこと、嬉しいこと、感動的なことも、数多く体験します。まさに、喜怒哀楽の宝庫、それが学校です。

 赤来中に勤務してから(最初の4年間は)毎年、不登校(傾向)生徒は2人〜4人。不登校生徒のことを考えない日がないほど、私にとって心に黒雲がかかり続けていました。

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進化する赤来中


 「10年ひと昔」と言いますが、その変化には改めて驚かされます。赤来中着任以降も、さまざまな新たな実践がスタートしています。どれもこれも、大半が校長の私が指示して始まったものではありません。一人一人の先生方が、自らの発想と理念に基づき始めてくださった教育実践です。

 そのいずれもが、やったからといって労苦が増えることはあっても、手当が出るわけではありません。「教育愛」と「専門意識」のなせる業です。退職を迎えるに当たって、教職員に対して改めて深く敬意を表するとともに、感謝の気持ちを伝えたい思いでいっぱいです。

感謝状(職員送別会にて)

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赤来中の特色ある教育活動

赤来中の特色ある教育活動


 現在も継続している実践です。

(H.10-)朝の読書
(H.13-)中高一貫教育
(H.14-)読書ノート
(H.15-)レインボーチャート
 20.08.25 子育てのページ ニュース(新聞の記事にリンク)
 20.07.30 レインボーチャートが新聞に取り上げられました
 18.10.01 レインボーチャートの実践
 18.08.09 独自の評価システム(ベネッセ教育情報サイトへリンク)

(H.15-)サマースクール



以下は赤来中勤務時代にスタート!

【平成17年度】
〇 図書館の整備充実・活用教育
  
学校図書館の整備・充実

〇 学習カウンセリング
  
「レインボーチャート」⇒「学習カウンセリング」

                  

【平成18年度】
〇 小中連携教育
〇 「赤来タイム」の一新
  =進級研究・卒業研究など図書館活用教育

                  

【平成19年度】
〇 保小中高連携教育
〇 読書の部屋
〇 自学ノート 
  21.12.04 教育実践記録「家庭学習習慣の確立を目指して」

〇 要約学習
  22.01.31(日) 全校ぐるみの要約学習

〇 未来へのときめき
〇 ヘルスライフカウンセリング

                  

【平成20年度】
〇 新学校評価システム
〇 保育サポーター
〇 レインボーマラソン

                  

【平成21年度】
〇 メディアの活用教育
〇 レインボータイム
〇 メディア・ヘルスライフチェッ ク(翌年)保・小・中・高一斉

                  

【平成22年度】
〇 弁当上掛けボランティア
〇 保護者への図書貸出し

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草木染め「虹」のステージ







怒濤のような6年間でした


 この6年間を振り返ってみると、さまざまな出来事がまさに走馬燈のように甦ってきます。なかでも、日々時間と労力をつぎ込んできたのは「ホームページ」です。また、それに付随した「赤来中だより」です。これがなかったら、校長室はもっとゆったりと時間が流れていました。

 でも、視点を変えると、これが充実の根元でもありました。ゆとりがあるときもないときも、どんどん校長室を飛び出して、生徒を求めて校舎内外を歩き回りました。きっと、これほど授業を観て歩いたり、生徒とコミュニケーションを取ったりした校長は、そう多くないのかも知れません。 ……ホームページを担当していなかったら、きっと校長室に引きこもり傾向の6年間だったと思います。

 平成19年度に開催された「島根県学校図書館研究大会」も、この間の大きな出来事でした。本来は教頭が担当してきている「事務局長」をあえて担当しました。自分がつらく苦しいところを担うことによって、「先生方と労苦をともにしたかった」という思いもあったからです。
 
 この研究大会を通して、飯南町内の小中学校6校とも「図書館」一気に整備・充実が図られました。あわせて、学校図書館が活性化しました。大きな大きな宝が残りました。

 ちなみに、この研究大会が終わると、再び「島根県学校図書館協議会」会長を務める(
平成12年度〜16年度 ⇒ 平成20年度〜22年度)ことになりました。もっとも、実質的に事業を切り盛りするのは事務局長ですから、心身の負担がそう大きかったわけではありません。

 もう一つ、自分にとって心身をすり減らしたのは、発達障害のため言動が荒れていた生徒○名との関わりです。保護者の中には、厳しい言葉をかけられる方もありました。しかし、大半の保護者は温かく見守ってくださり、私も授業を担当することを通して、生徒を育てていく労苦を職員と共有しました。 ⇒立派に成長してくれました。そのなかの2名は、進学後の学校で生徒会長を務めるとともに、サッカー大会で全国大会出場を果たしたりするなど、大きく飛躍しています。

                   

 基本的に、赤来中の生徒は明るくおおらか、人なつこくて素直な特長があります。着任したときも、そういう雰囲気が充ち満ちていました。

 ただ、卒業生には申し訳ないことを書きますが、気になることが2つありました。ひとつは、学習への取組の甘さです。中高一貫教育の「陰の部分」(入試にペーパーテストがない)という一面もありました。家庭学習不足を指摘してくださったのは、飯南高校校長先生です。「3年生2月の家庭学習時間(平均)が30分程度」という実態を受け、格闘が始まりました。

 結局ヒットしたのが「自学ノート」でした。ただ、現在でも「やっつけしごと」的な生徒が少なくありません。それを打破する取組が「保小中高連携教育」「未来へのときめき」など、キャリア教育です。 ……まだまだ道半ばではありますが、少しずつ明かりが見えてきています。

                   

 もう一つ、気になることがありました。それは「あふれる活力」に関わる部分です。(前回勤務していたとき 平成8年度〜9年度と比べて)保護者送迎の激増は、時代の趨勢でもあるし、不審者の問題もあるし、これは致し方ない面があります。

 気になったのは、掃除と体育(特に長距離走と水泳)です。掃除については、生徒指導担当者のパワフルな指導力と、教職員の一致団結した指導姿勢により、徐々に大きく変革。いまや、赤来中生徒の掃除態度・作業態度は感謝状ものです。

 長距離走は、のろのろ大きな集団を作ってスタート。一人一人がベストを尽くして記録に挑戦する「活力」とはほど遠い状況でした。陸上種目別練習の風景も悲しくなりました。水泳も、男女別にされているにもかかわらず、特に女子生徒の参加率は2割〜4割程度でしかありませんでした。

 体育教員は優秀で指導力がありましたが、一人でどうこうできる状況ではありません。この「赤信号みんなで渡れば……」を変えていったのは、教員集団の一致団結した指導姿勢です。一年生から、意識変革をスタート。紆余曲折を経ながらも、3年目には活力あふれる雰囲気が広がりました。集団の力です。


         
                

 学校生活が楽しいかどうかというのは、この活力と大きく関わっています。毎学期末に調査していた「生活アンケート」の結果も、徐々に上向いてきました

2学期末調査(4段階)で 「はい」と答えた生徒 H17 H18 H19 H20 H21 H22
学校生活は、楽しく過ごしていますか? 23% 47% 71% 73% 81% 80%
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シャトルラン
男子 女子
全 国 年齢(学年) 平均値 平均値
13歳(中1) 81回 53回
14歳(中2) 86回 54回
15歳(中3) 81回 45回
赤来中
中位の生徒
23.3.18実施 100回 62回
23.2.28実施 95回 60回









万感の思いを込めて
ありがとうございました



 思い返せば、あっけなく37年間が過ぎ去っていきました。

 学校(という雰囲気)が大好きで、奉職したから今日の今日まで、「仕事をしている」という意識のない、本当に楽しく充実した毎日を過ごさせていただきました。 ……児童・生徒の皆さん、教職員の皆さん、保護者の皆さん、地域の皆さんには、改めて感謝の気持ちでいっぱいです。

 すでに退任式も(職員)送別会も終わりました。しかし、今でも実感が湧きません。何だか人ごとのような気持ちです。3月29日には引き継ぎがあり、正式に退職するのは3月31日です。

 きっと4月以降、学校へ出勤することもなくなって、一段落したら寂しさがじわぁ〜っと襲ってくるかも知れません。それほど、私にとっては学校がすべてでした。子ども達一人一人が大好きでした。

 最後の9年間、地元の小田小、赤来中に勤務させていただいたのもタイミングです。生徒に語りかける時、教師の言葉がスポンジのように吸収されていく、そんな純な心を持った子ども達、……。素晴らしい子ども達とともに、最後の教員生活を過ごさせていただいたことについて、感謝の気持ちでいっぱいです。

 万感の思いを込めて、……

 
ほんとうにありがとうございました。

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